1JIA中国建築大賞2009 審査結果

レポート (社)日本建築家協会中国支部

教育・事業委員会 委員長 宇川民夫

 

JIA中国支部では、JIAの建築家憲章の理念にもとづき、中国5県に造られた建築を顕彰する目的で、JIA中国建築大賞を創設した。本賞は、中国地方のすぐれた建築デザインや建築文化や環境形成に寄与した建築作品を設計した建築家を顕彰する目的で、「第1回JIA中国建築大賞2009」を開催した

応募建築作品は最近10年内に竣工した一般建築部門・住宅部門の2部門とし、審査委員長には 建築家 内藤廣先生、審査員には 建築家 倉森治先生にお願いしました。全国の建築家から一般建築部門は14作品、住宅部門は14作品の応募があり、1次審査に一般建築部門は2作品、住宅部門は6作品選ばれた。その後924日に山陰、1020日、21日に山陽にて審査員による現地審査を行い、一般建築部門 建築大賞1作品、優秀賞1作品、住宅部門 住宅大賞2作品、優秀賞4作品が選ばれた。

1127日、28日に開催されたJIA中国支部建築家大会IN下関2009にて入賞発表を行い、審査委員長 内藤廣先生の講評と大賞受賞者による作品説明を行いました。表彰式は20104月の中国支部総会にて執り行なう予定です。


総評

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)

新しい賞は、この地域の文化を醸成するものでなくてはならないと思います。地域を励まし、地域の誇りとなり、地域を元気づける、そんな賞に育ってほしいものです。

初めての賞ということもあって、個性的な作品が多数寄せられました。どの作品にも熱が入っていました。一次選考は書類ですが、添付された写真では本当のところは分かりません。じっくり眺めて、最後は勘で決めるしかありません。事務局に無理をお願いして、二次選考はすべて現地を見せてもらいました。ひとことでいうと、とても勉強になりました。どの作品も密度とアイデアがあって素晴らしいものでした。

現地審査の結果、今回は二次審査に進んだものはすべて優秀賞に相当すると判断しました。おなじく審査に当たった倉森さんも、わたしと同じような感想を持たれたはずです。優劣付けがたい中で、私自身がその場所にもう少し居たい、もう一度訪ねてみたい、そういう感じを強く受けたものを大賞に選びました。

もとより、賞は応募する側と審査する側の共同作業です。たくさんの応募が集まることで、より高いレベルで競い合う風土が生まれます。切磋琢磨する場が生まれたわけですから、よりたくさんの応募が集まることを期待します。

 


一般建築部門―

大賞

まなびの館ローズコム(福山市中央図書館・福山市生涯学習センター)(広島県)

設計者 江副 敏史  鞄建設計

 

講評

全体計画からディテールまで、あらゆるレベルでよく練り上げられた密度の高い作品。敷地の性状を読み込み、北面と東面に深い庇を設けて日射を避けるとともに開放性を持たせたことは秀逸な試みといえる。格子梁を使った構造的解決,省エネルギーに配慮した設備計画、どれも単なる技術に留まらず、この場所の価値を高めることに寄与している。こういう完成度の高さは、ラージファームならではの蓄積の上に成り立っていることを感じた。ひと言でいえば、大人の建物、成熟した建物と言えるだろう。この街と地域住民の誇りとなり得る、さらには全国に向けて発信し得る価値のある建物として高く評価したい。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


優秀賞

旧日銀岡山支店「ルネスホール」(岡山県) 

設計者 佐藤 正平 轄イ藤建築事務所

 

講評

新しい法制度の中で近代建築遺産を残すことには、さまざまな困難が付きまとう。全体の印象を巧みに残しながら、耐震性を増し設備的な補強をするという困難な課題を見事に解決している。アプローチをサイドにとって新設し、回り込むように入る配置も巧みだ。旧銀行の主空間には、構造補強のための四本の柱が立っている。これを設備的にも利用し、古い保存部分と対比的に新しいデザインを採用したのは正解だろう。これも保存するデザインに敬意を表するやり方だと思った。この街の記憶のひとつである建物を、新たなシンボルとして再活用しようという姿勢と執念、その成果を高く評価したい。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


住宅部門―

大賞

黒の家(岡山県) 

設計者 神家 昭雄  神家昭雄建築研究室

 

講評

小住宅として最良の建物。建築家の自邸は、自らの実験場でもある。通常ならその試みの勇み足が目立つものだが,この建物ではそれが絶妙のバランスを保っており,居心地の良い空間を作り出している。特に、高さを低く抑えた居間の窓から眺める田圃の風景は素晴らしく,それを際立たせる建具のディテールも秀逸である。開口部のプロポーションも含めて、この風景の切り取り方にこの住宅の在り方のすべてが集約されている。外部の広がりを内部へ呼び込むこと,それこそがこの場所のかけがえのない新たな価値を創出している。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


大賞

HOVER HOUSE(広島県) 

設計者 中薗 哲也 ナフ・アーキテクトアンドデザイン()

 

講評

新しい技術と表現に果敢に挑戦した作品。鉄骨造で床を宙に浮かせ、コスト軽減を図るとともに、斬新な住宅の在り方を提示している。建物を浮かすことで、設備配管に対する合理化も図っている。この住宅の主要な構成要素である亜鉛ドブ漬けの塀は、一見ぶっきらぼうに見えるが、微妙に白濁して質感充分で、建物が置かれた周辺環境の中では,建物のボリュームを消すとともに、個性的でありながら周囲に対してきわめて親和性の高い材料となっている。テラスと一体になった空間構成は,重量感のある塀に囲われて、開放的な空間構成を可能にしている。いずれにしても、この住宅の空間は新しい。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


優秀賞

黒谷の家(岡山県) 

設計者 大角 雄三 大角雄三設計室

 

講評

古民家再生を旗印にしたグループの活動は、単に保存に精を出すだけではなく、多くの貴重な建築的エッセンスをそのプロセスで学び会得していることを、この住宅を見て強く感じた。この住宅は、古民家再生をきっかけに、それを活用し、展開し、増殖し、いまだにその動きを止めていない。施主の意欲にも敬意を表するが、それを忍耐強く受け止め、けっしてどのような局面でもクリエイティビティを失わない作者の強靭な精神に敬意を表したい。古民家再生は、ひょっとしたら建築という価値の再考と再生にも繋がるのではないか、そんな可能性すら感じることが出来た。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


優秀賞

FLAT(広島県)   

設計者 大江 一夫 マニエラ建築設計事務所

 

講評

大好きな自動車と暮らす生活、なんとアブローマルな住まいかと思いきや、ご主人はカーデザイナー。仕事と生活が絶妙に一体になった住まいだった。中庭を介して、奥に配置された居間と、車の部屋、陶芸をやる奥様の作業部屋、それらが心地よく対話しているようだ。敷地は住宅団地の端に位置し、瀬戸内海まで遠望を見渡せる絶景なのだが、一見簡素な折板屋根の簡素な陸屋根の平屋建てである。景色ばかりに目がいくのではなく、あくまでも生活そのものにこだわった構成が好ましい。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


優秀賞

デッキテラスの家(島根県) 

設計者 原 浩二  原浩二建築設計事務所

 

講評

正方形の端正な平面だが、よく見ると居間の幅がかなり小さい。本当にこれで住めるのだろうか、と不安な気持ちで現地を訪れた。ところがなかなか快適な空間。プライベート化されたテラスと一体になっていて、これなら使えると思った。一階のプライベート空間の天井が異様に高いのと対照的に、居間のある二階の天井高が極めて低く抑えられているのが印象的だった。これもテラスとの関係でなかなか良い効果を生んでいる。やはりこういう微妙な空間の工夫は写真では分からない。細かなディテールの処理も丁寧で、端正な住宅だった。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)


優秀賞

階段の家(島根県)  

設計者 三宅 正浩  y+M design oficce

 

講評

なかなか魅力的な思い切った形をしている。大型タイルを使った階段状の形態、さらにその階段の隙間がスリット状のトップサイドライトになっている。おまけにそれを支えているのが木造ときている。こんなディテール、僕だったら怖くてとても出来ない。島根のような雪の降る場所でこのディテールでは問題があるだろうな、と半信半疑で現地審査にいった。現地審査というのは行ってみるものですね。しっかり出来ていて、雨漏りもしていない。このディテールを支える技術的なケアをしている。空間も見たことのないものだった。

審査委員長 内藤廣(建築家・東京大学大学院教授)